首だけ振り向いた井上は俯き、またあわあわと慌てて言う。<br>「あのね、その、たつきちゃんが朝ね、コンビニ寄って、そのチョコ黒崎くんにあげるんだっていうからね」<br>「……ああ、なるほどな」<br>それで遅刻か、とたつきの言葉に納得する。多分お菓子コーナーで悩みだした井上をたつきは諦めて置き去りにしたのだろう。<br>意外と頑固だと聞いた気がする。……って、なんでそんなこと知ってんだ俺は。そしてなんでこんなとこで思い出すんだそれを。それに。<br>同じコンビニにこれだけの種類があるのかと疑問。<br>「それで、あたしもなにかあげたいなあって。黒崎くん、一護くんだから……たくさんの苺味を探して野を越え山を越えて探したら」<br>「こんな時間になった、と」<br>「はい……」<br>安直にして凄まじい集中力。野を越え山越えってどこまで買いに行ったんだか。<br>それを想像すると可笑しいやら、いや――めちゃくちゃ嬉しいやらで、笑う。アホみたいに声上げて。<br>「く、黒崎くん?」<br>ぽかんとした顔で、ちゃんと向き直った井上の頭を思わず妹たちにするみたいにぽんぽんと撫でる。つい、うっかり。<br>「いや……おまえ、最高っ……は、笑い、止まらね……っ」<br>「あ、あたし可笑しなことした?」<br>不安そうな、でもどこかつられて笑いたそうな表情で見上げる井上の赤い顔にいいや、と首を振り。<br>「遠くまでありがとな、井上」<br>またうっかりと、その小さな頭を撫でると、嬉しそうに笑う。その笑顔が何故か別れた後も暫くはなれなかったことと、 なんで学校休んでまで、と思う気分にいやに複雑だった気分が妙に浮かれたそれに塗り変えられたみたいに。<br>練乳いちごを噛み砕きながら、甘すぎるなこれ、とまた一人で笑った。
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